日本で近代的な炉が作られたのは鎖国状態の江戸時代まで遡ります。当時の日本は欧米列強の脅威にさらされており、大砲などを生産するために質の高い鉄を生産する必要がありました。上の写真は山口県に現存する萩反射炉です。萩反射炉は主に玄武岩で作られていますが、現代の炉は耐火物によって施工されます。その理由は言わずもがな、技術の進歩によって、より高い耐火度や安定・均一の品質が求められるようになったからです。
鉄を溶かしたり、ごみを焼却したりするための設備のことを「炉」と言いますが、定形耐火物(耐火煉瓦)を積み上げたり、不定形耐火物(キャスタブル)を流しこんだり吹き付けたりして炉を作ることを「築炉」と言います。身近な例を挙げるとレストランのピザ窯も耐火物によって作られた炉です。
炉の形は、トンネル型で入口から出口まで焼成物を移動させていくものや、部屋型で一定の場所から動かさずに焼成を行うもの等、様々です。
築炉は炉の形状や使用用途によって、多種多様な耐火物を組み合わせて施工されます。 炉の規模にもよりますが、工期は1年以上に及ぶものもあります。
築炉の工事には設計段階と施工段階があります。 設計段階では、『ライニング』という作業を行います。ライニングは、炉内の溶解物や雰囲気の温度、化学成分、衝撃、構造物としての成立条件など多くの計算を行い、どこにどの様な耐火物を当てはめるかの設計図を仕上げていきます。 この作業は、炉の操業主(施主)、炉のメーカー、築炉業者、耐火物メーカーなどが協力して仕上げています。
施工段階では、築炉業者により、現場の施工作業が行われます。
築炉には専門の国家資格『築炉技能士1級・2級』があります。いずれの試験も、実際にレンガ組みを行う実務試験があり、1級を受験するには7年もの実務経験(または2級合格後2年以上)が必要とされています。
築炉職人の方々は、大型の機械を使って施工するほかに、トンカチや目切り、レンガごてなどの職人道具を使用して、手作業で炉を組み上げる専門職です。
築炉はただ煉瓦を積み上げるだけの作業ではありません。超高温で耐火材が膨張することなどを見込んで、膨張や収縮を受け止める為の工夫を行うなど、過酷な使用環境ならではの専門技術が必要とされます。
築炉作業は大きな負荷を受ける『炉』を工業炉の停止期間という限られたスケジュールの中で、安全かつ長持ちするように施工しなければなりません。築炉職人の方々の経験に基づく気づきと緻密な作業とで、安全な炉の操業があると言えます。
煉瓦積み施工
定形耐火物(煉瓦)を積み上げて築炉する施工です。積んだ時にぴったり寸法にはまるようにサイズを加工ながら施工します。工事対象の炉専用に作られた煉瓦を使う場合もあります。
煉瓦そのものが大型の建築構造体を担う場合も多く、1ミリのずれが何メートルものズレを生じさせるため、正確な切断と施工が求められます。
不定形耐火物による施工
枠を設置し、そこにキャスタブルを流し込んで成形します。部分によって煉瓦積みと組み合わせて施工することも多々あります。正確な枠を作ることも職人技の1つと言えます。
補修作業
炉はメンテナンスすれば長期間使い続けることも可能です。不定形耐火物を吹き付けて補修する方法や、傷んだ煉瓦を部分的に差し替えたりする方法があります。
炉の性質上、メンテンナンス停止は短時間で速やかに行う必要があります。そのため、施工性や速乾性など、補修材ならではの性能が求められています。熱間補修のように、熱い炉の中へ投げ込みや吹付で施工する方法もあります。
事例1 アルミ溶解炉 煉瓦施工後
事例2 炭焼成炉 煉瓦施工後