耐火物は私たちが普段使っているスマートフォン、自動車などに使われる金属やガラスの生成に必要不可欠です。下の表は2019年度の日本における耐火物の産業別販売量です。耐火物の約8割は鉄鋼業で消費されていますが、幅広い産業で耐火物が使われていることが分かります。
産 業 | 定形耐火物の 販売量(t) | 不定形耐火物の 販売量(t) | 定形+不定形の 比率(%) |
---|---|---|---|
①鉄鋼業 | 355,381 | 538,655 | 81.0 |
②非鉄金属工業 | 9,374 | 11,050 | 1.9 |
③機械工業 | 7,263 | 26,493 | 3.1 |
④セメント業 | 20,978 | 5,806 | 2.4 |
⑤ガラス産業 | 4,860 | 664 | 0.5 |
⑥その他窯業 | 7,254 | 11,068 | 1.7 |
⑦化学工業 | 3,068 | 1,171 | 0.4 |
⑧ガス電気業 | 22 | 3,282 | 0.3 |
⑨廃棄物産業 | 3,938 | 27,641 | 2.9 |
⑩輸出 | 16,968 | 15,848 | 3.0 |
⑪その他 | 8,752 | 24,721 | 3.0 |
合 計 | 437,858 | 666,399 | 100.0 |
出典:耐火物No.750,発行所;耐火物技術協会,2020年7月1日発行,p.305
しかし、耐火物は皆さんが普段目にしない場所で活躍しているため、一般的に聞き馴染みがないという方が多くいらっしゃいます。そこで、鉄鋼業、セメント業、ガラス産業を例に耐火物がどのように使われているのかを簡単に紹介します。
鉄鋼の製造には原料の加熱、溶解、精錬といった工程があります。これらの工程で使用される炉や溶鋼の移送に使用される容器には耐火物が内張りしてあります。一口に鉄を作ると言っても様々な鉄の種類や方法があります。それらの工程の中には炉内が2,000℃を超えるものもあります。鉄鋼業界で使われる耐火物は溶けた金属を受ける時の衝撃や急激な温度変化に耐える等、以下の性質が求められます。
セメントの製造工程は原料工程・焼成工程・仕上げ工程の3つに分けることができ、耐火物は2番目の焼成工程で使用されます。原料工程で作られた粉末原料はプレヒーターで約900℃まで予熱された後、ロータリーキルンで焼成されます。キルンの最高温度は約1,500℃に達し、粉末原料は化学変化を起こしてクリンカー(水硬性をもった鉱物)となります。これを仕上げ工程で最終加工することでセメントが出来上がります。
長い筒状のロータリーキルンは少し傾斜がつけられており、キルンが回転することで上から下方向へ焼成物が移動していきます。キルンの内部は手前から、仮焼帯、脱着帯、焼成帯、冷却帯に分けられ、同じキルン内でも耐火物に求められる性質が異なります。原料が連続して投入されるため、耐摩耗性が求められるほか、焼きあがったクリンカーを急冷する際の耐スポーリング性が求められるという特徴があります。
透明な板ガラスはフロート法という方法で製造されます。溶融した錫(すず)が溜まった炉(フロートバス)に溶かした原料を連続的に流し込んでガラスを板状にします。水に浮いた油をイメージしてください。流し込まれた原料(溶けたガラス)は錫(すず)より軽いため、その上に浮かんだ状態で流れていき、その過程で均一な厚さに成形されます。この際、炉内は約1600℃に加熱されます。
原料を溶かす溶融窯、ガラスを薄く延ばすフロートバス、ガラスをゆっくりと冷やす徐冷窯の工程で耐火物は欠かせません。
ガラス製造で使われる耐火物には耐食性に加えて、保温性が求められるという特徴があります。